成年後見人による契約取り消しは、本人を守るための大切な仕組みですが、どんな契約でも自由に戻せるわけではありません。日用品の購入、本人の住まいに関わる契約、任意後見との違いなどを混同すると、相手方への連絡や返金交渉でつまずきやすくなります。
この記事では、成年後見人が取り消せる契約と取り消しにくい契約、確認する順番、実際に動くときの注意点を整理します。家族や後見人が慌てて判断せず、本人の利益を守るために何を確認すればよいかが分かる内容です。
成年後見人の契約取り消しは範囲確認が先
成年後見人は、成年被後見人が自分で結んだ売買契約、借入契約、訪問販売、通信販売、クレジット契約などについて、本人に不利益がある場合に取り消しを検討できます。大きな考え方としては、判断能力が十分でない本人が不利な契約をしてしまったときに、後から効力を戻せるようにする制度です。ただし、最初に見るべきなのは「契約の種類」と「日常生活に関する行為かどうか」です。
特に大事なのは、日用品の購入や日常生活に関する行為は取り消しの対象外になりやすい点です。たとえば、近所のスーパーで食料品を買う、ドラッグストアで洗剤を買う、いつも利用している交通機関の切符を買うといった行為まで取り消せると、本人の日常生活がかえって不自由になります。そのため、本人を守る制度であっても、本人の暮らしを過度に制限しない考え方が取られています。
一方で、高額な健康器具、不要なリフォーム、定期購入、投資性のある契約、借金、クレジットカード利用などは、日常生活の範囲を超える可能性があります。本人が契約内容を理解できていなかった、支払い能力に合っていない、同じ業者から何度も勧誘されていたなどの事情があれば、早めに取り消しを検討したほうがよい場面です。迷ったときは、金額だけでなく、本人の生活状況、財産状況、契約の必要性を合わせて見ることが大切です。
| 確認すること | 見方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 契約した人 | 成年被後見人本人が契約したかを確認する | 家族や後見人が代理で契約した場合は扱いが変わります |
| 契約の内容 | 日用品か、高額商品か、継続契約かを分ける | 食品や日用品でも量や金額が不自然なら確認が必要です |
| 契約時期 | 後見開始後の契約か、開始前の契約かを見る | 後見開始前は別の理由で争う必要が出ることがあります |
| 本人の利益 | 本人に必要か、不利益が大きいかを考える | 家族にとって不要でも本人には必要な場合があります |
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まず確認したい制度の前提
成年後見制度には、法定後見と任意後見があります。検索するとどちらも「後見人」と呼ばれるため混同しやすいですが、契約取り消しで特に重要なのは、成年後見人に取消権があるのは法定後見の「後見」の場面だという点です。家庭裁判所の審判で成年後見人が選ばれ、本人が成年被後見人になっている場合、本人がした法律行為を取り消せる可能性があります。
後見・保佐・補助の違い
法定後見には、後見、保佐、補助の段階があります。後見は、本人が判断する力を欠くのが通常の状態とされる場合に使われ、成年後見人に広い代理権と取消権が認められます。保佐や補助は、本人の判断能力が一定程度残っていることを前提に、家庭裁判所が定めた範囲で同意権や取消権が問題になります。
そのため、家族が「後見人がいるから取り消せるはず」と思っていても、実際には保佐人や補助人であり、取り消せる契約の範囲が限られていることがあります。契約書や登記事項証明書、家庭裁判所の審判書を見て、本人が成年被後見人なのか、被保佐人なのか、被補助人なのかを確認してください。ここを間違えると、業者に連絡しても「取消権の範囲ではない」と言われ、話が進みにくくなります。
特に補助の場合は、本人の同意を前提に必要な範囲だけ支援を受ける制度です。すべての契約を後から取り消せるわけではないため、契約内容が家庭裁判所の審判で定められた範囲に入っているかを見る必要があります。実務では、後見人という言葉だけで判断せず、制度上の立場を正確に確認することが最初の分かれ道になります。
任意後見では扱いが違う
任意後見は、本人が元気なうちに将来に備えて任意後見契約を結び、判断能力が低下した後に任意後見監督人が選任されて効力が動き出す仕組みです。任意後見人は、契約で定められた範囲の代理権を持ちますが、法定後見の成年後見人のような取消権はありません。ここはとても間違えやすいポイントです。
たとえば、任意後見人が財産管理を任されていても、本人が自分で結んだ訪問販売契約を、任意後見人という立場だけで当然に取り消せるわけではありません。この場合は、クーリング・オフ、消費者契約法、詐欺や強迫、契約内容の不当性など、別の制度を使えるかを確認する流れになります。任意後見人だから何でも止められると考えると、対応が遅れてしまうことがあります。
任意後見で本人の契約トラブルが続いている場合は、法定後見への切り替えを検討することもあります。ただし、切り替えには家庭裁判所での手続きが必要で、すぐに過去の契約がすべて取り消せるわけではありません。現在の制度が任意後見なのか法定後見なのかを整理し、必要なら専門家に相談してから動くほうが安全です。
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取り消せる契約の見分け方
成年後見人の契約取り消しで判断しやすくするには、契約を「日常生活」「高額・継続」「財産や住まい」「身分に関すること」に分けて考えると整理しやすくなります。同じ買い物でも、本人の生活に必要な少額の買い物なのか、本人の財産を大きく減らす契約なのかで扱いが変わります。相手方に連絡する前に、契約書、領収書、請求書、通帳の出金履歴、クレジット明細を集めておくと判断しやすくなります。
日常生活の契約は慎重に見る
日用品の購入その他日常生活に関する行為は、原則として取り消しの対象外です。食料品、衣類、日用雑貨、少額の交通費、通常の外食などは、本人が日々の生活を送るために必要な行為として扱われやすいです。本人の判断能力に不安があっても、生活のすべてを後見人の許可制にすると、本人の自由や尊厳を損なうためです。
ただし、日用品という名前が付いていれば何でも取り消せないわけではありません。たとえば、洗剤を数万円分まとめて買わされている、健康食品の定期購入が複数契約されている、布団や浄水器を生活必需品のように説明され高額で契約している場合は、日常生活の範囲を超える可能性があります。商品名だけでなく、数量、金額、契約期間、勧誘方法を見て判断します。
本人の生活水準によっても判断は変わります。ある人にとっては普通の買い物でも、年金収入だけで生活している人にとっては大きな負担になることがあります。成年後見人は、家族の感覚だけで「不要」と決めるのではなく、本人の普段の生活、収入、預貯金、過去の買い物の傾向を見ながら、日常生活の範囲に入るかを考える必要があります。
高額契約や借金は早めに動く
高額な商品購入、リフォーム契約、訪問販売、電話勧誘販売、通信販売の定期購入、クレジット契約、借金などは、成年後見人による取り消しを検討しやすい分野です。本人が契約内容、支払総額、解約条件、分割手数料を理解していなかった場合、本人の財産を守る必要性が高くなります。特に、高齢者を狙った勧誘では、親切な会話や無料点検をきっかけに契約へ進むこともあります。
このような契約では、時間が経つほど商品の使用、工事の進行、引き落とし、分割払いが進み、返金や原状回復の話し合いが複雑になります。契約書を見つけたら、まず契約日、販売会社名、担当者名、支払方法、商品の引き渡し状況、工事の有無を確認してください。クーリング・オフ期間内なら、成年後見人の取消権とは別に、より早く対応できる可能性もあります。
相手方に連絡するときは、感情的に「だまされた」と決めつけるより、本人が成年被後見人であること、成年後見人として契約を取り消す意思があること、返金や商品の返還方法を確認したいことを文書で伝えるほうが落ち着いて進めやすいです。電話だけで済ませると、言った言わないになりやすいため、通知書、メール、内容証明郵便など記録が残る形を検討します。
| 契約の種類 | 取り消しを検討しやすい例 | 確認したい資料 |
|---|---|---|
| 訪問販売 | 布団、浄水器、屋根修理、外壁工事 | 契約書、名刺、工事前後の写真 |
| 通信販売 | 健康食品、化粧品、定期購入 | 注文画面、納品書、解約条件、支払明細 |
| 金融関係 | 借入、カード契約、投資性商品 | 契約書、通帳、カード明細、説明資料 |
| 生活関連契約 | 不要な高額家電、過量な日用品 | 領収書、配送記録、本人の生活費資料 |
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取り消しの進め方
契約を取り消したいと思ったら、最初に事実を整理し、次に相手方へ意思表示をする流れで考えます。成年後見人が取り消しをする場合でも、口頭で「なしにしてください」と伝えるだけでは不十分になりやすく、後で証明できる形にしておくことが大切です。本人の財産を守るだけでなく、相手方との無用な争いを避けるためにも、証拠をそろえてから動くほうが安全です。
契約書と支払い状況を集める
まず集めるべきなのは、契約書、申込書、領収書、納品書、請求書、保証書、パンフレット、メール、SMS、通帳、クレジットカード明細です。訪問販売や電話勧誘の場合は、販売員の名刺、会社名、電話番号、訪問日時、説明された内容のメモも役立ちます。本人がどのような説明を受けたかを完全に再現できなくても、残っている資料から契約の流れをかなり整理できます。
次に、商品やサービスがすでに提供されたかを確認します。商品が未開封で手元にあるのか、すでに使用しているのか、工事が始まっているのか、定期購入が何回届いているのかで、返還や返金の話が変わります。成年後見人として取り消しを主張する場合でも、受け取った商品や現存利益の扱いが問題になることがあるため、勝手に捨てたり使い続けたりしないほうがよいです。
また、後見開始の時期も確認してください。本人が契約した日が後見開始後であれば、成年後見人の取消権を検討しやすくなります。一方、後見開始前の契約であれば、当時の判断能力、消費者契約法、詐欺、錯誤、クーリング・オフなど別の観点が必要になることがあります。契約日と審判確定日を並べて見るだけでも、次に使うべき制度が整理しやすくなります。
取り消しの意思を文書で伝える
契約取り消しを進めるときは、相手方へ取り消しの意思を文書で伝えるのが基本です。文書には、契約者である本人の氏名、契約日、契約内容、販売会社名、成年後見人として契約を取り消すこと、返金や商品の返還について協議したいことを入れます。必要に応じて、成年後見人であることを示す登記事項証明書の写しを添えると、相手方も確認しやすくなります。
文面は強い言葉にしすぎないほうがよいです。「詐欺です」「悪徳業者です」と決めつける表現を使うと、相手方が反発し、話し合いが長引くことがあります。まずは、成年被後見人が行った法律行為について成年後見人として取り消す、という制度上の根拠を落ち着いて伝えるほうが実務的です。電話をする場合も、後で文書を送る前提で、担当者名と対応日時をメモしてください。
相手方が応じない場合は、消費生活センター、地域包括支援センター、弁護士、司法書士などに相談します。高額なリフォーム、借金、投資商品、不動産、相続に関わる契約は、早い段階で専門家に相談したほうがよい分野です。成年後見人が一人で抱え込むと、返金交渉、訴訟、家庭裁判所への報告が重なり、対応が複雑になりやすいためです。
失敗しやすい注意点
成年後見人の契約取り消しで失敗しやすいのは、「取り消せるはず」と思い込んで資料を残さないことです。契約書を捨てる、商品を処分する、相手方に怒りの電話だけをする、本人の話を聞かずに家族だけで進めると、後から状況が分からなくなります。取り消しができる可能性があるときほど、事実を崩さず保存する意識が必要です。
住まいに関する契約は別に考える
本人の住まいに関する契約は、通常の買い物より慎重に扱う必要があります。成年後見人には財産管理の権限がありますが、本人が住んでいた家の売却、賃貸借契約の解除、施設入所に伴う住居の処分などは、本人の生活の土台に関わります。場面によっては家庭裁判所の許可が必要になるため、契約取り消しと同じ感覚で急いで進めないほうが安全です。
たとえば、本人が入院した、施設に入った、空き家になったという理由だけで、すぐに賃貸契約を解約したり自宅を売却したりすると、本人が戻る場所を失うことがあります。本人の意思、医師やケアマネジャーの見通し、施設入所の継続性、家計への影響を確認してから判断する必要があります。住まいは財産であると同時に、本人の生活歴や安心感にも関わるものです。
また、住宅リフォーム契約を取り消す場合も、工事がどこまで進んでいるかで対応が変わります。未着工なら比較的整理しやすい一方、工事後は原状回復や代金精算が問題になります。屋根修理、外壁塗装、バリアフリー工事、賃貸借契約の解除などは、家庭裁判所や専門家への相談を早めに入れ、本人にとって本当に必要な処理かを確認してください。
家族の都合だけで判断しない
成年後見人の仕事は、家族の利益ではなく本人の利益を守ることです。家族から見ると不要な契約でも、本人にとって生活の楽しみや安心につながっている場合があります。たとえば、趣味の道具、新聞、少額の通信サービス、日用品の定期配送などは、金額や内容だけを見て一律に取り消すのではなく、本人の生活に必要かどうかを確認する姿勢が大切です。
反対に、本人が「必要だ」と言っていても、契約内容を理解していない、高額すぎる、同じ商品が大量にある、支払いが生活費を圧迫している場合は、成年後見人が止める必要があります。本人の意思を尊重することと、本人を不利益から守ることは、どちらか一方だけを選ぶものではありません。本人の言葉を聞いたうえで、契約の客観的な負担を確認することが求められます。
家族間で意見が割れる場合は、記録を残しておくと後で説明しやすくなります。誰が契約を見つけたのか、本人は何と言っているのか、支払いはいくらか、生活費にどの程度影響するのかをメモしておくと、家庭裁判所への報告や専門家相談にも使えます。成年後見人の契約取り消しは、強い権限だからこそ、本人のために使っていると説明できる形にすることが大切です。
迷ったときの動き方
成年後見人の契約取り消しで迷ったときは、まず契約を「すぐ止めるべきもの」と「確認してから判断するもの」に分けてください。引き落としが続く定期購入、工事が進みそうなリフォーム、借入やクレジット契約、高額商品の配送前などは、時間が経つほど不利になりやすい契約です。契約書や明細を集め、相手方へ文書で連絡する準備を進めましょう。
次に、制度上の立場を確認します。本人が成年被後見人なのか、被保佐人なのか、被補助人なのか、任意後見なのかによって、使える権限が変わります。登記事項証明書、審判書、任意後見契約書を見て、取消権があるのか、代理権だけなのかを整理してください。ここが不明なまま業者へ連絡すると、話し合いの根拠が弱くなります。
最後に、ひとりで判断しにくい契約は早めに相談先を使います。消費者トラブルなら消費生活センター、介護や生活面なら地域包括支援センター、法的な返金交渉や訴訟の可能性があるなら弁護士や司法書士、後見事務全体に関わるなら家庭裁判所への確認が選択肢になります。成年後見人の契約取り消しは、早く動くことも大切ですが、本人の利益、制度の範囲、証拠の有無をそろえて進めることが失敗を減らす近道です。
まずは、契約書、支払い明細、後見関係の書類を一か所に集め、契約日、金額、相手方、商品やサービスの状態を書き出してください。そのうえで、日常生活の範囲か、高額・継続・財産処分に関わる契約かを分ければ、次に取るべき行動が見えやすくなります。判断に迷う契約ほど、取り消せるかどうかを急いで断定せず、記録を残しながら専門家や相談窓口につなぐことが大切です。
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